くして薄紅《うすべに》の色さしたると、樺色《かばいろ》なると、また黄なると、三ツ五ツはあらむ、芝茸はわれ取って捨てぬ。最も数多く獲たるは紅茸なり。
こは山蔭の土の色鼠に、朽葉黒かりし小暗《おぐら》きなかに、まわり一|抱《かかえ》もありたらむ榎《えのき》の株を取巻きて濡色の紅《くれない》したたるばかり塵《ちり》も留めず地《つち》に敷きて生《お》いたるなりき。一ツずつそのなかばを取りしに思いがけず真黒なる蛇の小さきが紫の蜘蛛《くも》追い駈《か》けて、縦横《たてよこ》に走りたれば、見るからに毒々しく、あまれるは残して留《や》みぬ。
松の根に踞《つくば》いて、籠のなかさしのぞく。この茸《きのこ》の数も、誰《た》がためにか獲たる、あわれ摩耶は市に帰るべし。
山番の爺がいいたるごとく駕籠は来て、われよりさきに庵の枝折戸《しおりど》にひたと立てられたり。壮佼《わかもの》居て一人は棒に頤《おとがい》つき、他は下に居て煙草《たばこ》のみつ。内にはうらわかきと、冴えたると、しめやかなる女の声して、摩耶のものいうは聞えざりしが、いかでわれ入らるべき。人に顔見するがもの憂ければこそ、摩耶も予もこの庵には
前へ
次へ
全31ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング