なすった時は、もうとっぷり暮れて、雪が……霙《みぞれ》になったろう。
麓《ふもと》の川の橋へかかると、鼠色の水が一杯で、ひだをうって大蜿《おおうね》りに蜒《うね》っちゃあ、どうどうッて聞えてさ。真黒《まっくろ》な線《すじ》のようになって、横ぶりにびしゃびしゃと頬辺《ほっぺた》を打っちゃあ霙が消えるんだ。一|山《やま》々々になってる柳の枯れたのが、渦を巻いて、それで森《しん》として、あかり一ツ見えなかったんだ。母様が、
(尼になっても、やっぱり寒いんだもの。)
と独言《ひとりごと》のようにおっしゃったが、それっきりどこかへいらっしゃったの。私は目が眩《くら》んじまって、ちっとも知らなかった。
ええ! それで、もうそれっきりお顔が見られずじまい。年も月もうろ覚え。その癖、嫁入をおしの時はちゃんと知ってるけれど、はじめて逢い出した時は覚えちゃあいないが、何でも摩耶さんとはその年から知合ったんだとそう思う。
私はね、母様がお亡くなんなすったって、それを承知は出来ないんだ。
そりゃものも分ったし、お亡《なく》なんなすったことは知ってるが、どうしてもあきらめられない。
何の詰《つま》ら
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