ない、学校へ行ったって、人とつきあったって、母様が活《い》きてお帰りじゃあなし、何にするものか。
トそう思うほど、お顔が見たくッて、堪《たま》らないから、どうしましょうどうしましょう、どうかしておくれな。どうでもして下さいなッて、摩耶さんが嫁入をして、逢えなくなってからは、なおの事、行っちゃあ尼様《あまさん》を強請《ねだ》ったんだ。私あ、だだを捏《こ》ねたんだ。
見ても、何でも分ったような、すべて承知をしているような、何でも出来るような、神通《じんずう》でもあるような、尼様だもの。どうにかしてくれないことはなかろうと思って、そのかわり、自分の思ってることは皆《みんな》打《うち》あけて、いって、そうしちゃあ目を瞑《ねむ》って尼様に暴れたんだね。
「そういうわけさ。」
他《ほか》に理窟もなんにもない。この間も、尼さまン処《とこ》へ行って、例のをやってる時に、すっと入っておいでなのが、摩耶さんだった。
私は何とも知らなかったけれど、気が着いたら、尼様が、頭を撫《な》でて、
(千坊や、これで可《い》いのじゃ。米も塩も納屋にあるから、出してたべさしてもらわっしゃいよ。私《わし》はちょっと
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