ますか。千ちゃん、何だってそういうじゃアありませんか。御新造様のお話しでは、このあいだ尼寺でお前さんとお逢いなすった時、お前さんは気絶《ひきつけ》ッちまったというじゃアありませんか。それでさ、御新造様は、あの児がそんなに思ってくれるんだもの、どうして置いて行《ゆ》かれるものか、なんて好《すき》なことをおっしやったがね、どうしたというのだね。」
 げにさることもありしよし、あとにてわれ摩耶に聞きて知りぬ。
「だって、何も自分じゃあ気がつかなかったんだから、どういうわけだか知りやしないよ。」
「知らないたって、どうもおかしいじゃアありませんか。」
「摩耶さんに聞くさ。」
「御新造様に聞きゃ、やっぱり千ちゃんにお聞き、とそうおっしゃるんだもの。何が何だか私たちにゃあちっとも訳がわかりやしない。」
 しかり、さることのくわしくは、世に尼君ならで知りたまわじ。
「お前、私達だって、口じゃあ分るようにいえないよ。皆《みんな》尼様《あまさん》が御存じだから、聞きたきゃあの方に聞くが可いんだ。」
「そらそら、その尼様だね、その尼様が全体分らないんだよ。
 名僧の、智識の、僧正の、何のッても、今時の御出
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