》じゃあないよ。そしてお前様《まえさん》、いつまでそうしているつもりなの。」
「死ぬまで。」
「え、死ぬまで。もう大抵じゃあないのね。まあ、そんならそうとして、話は早い方が可《い》いが、千ちゃん、お聞き。私だって何も彼家《あすこ》へは御譜代というわけじゃあなしさ、早い話が、お前さんの母様《おっかさん》とも私あ知合だったし、そりゃ内の旦那より、お前さんの方が私ゃまったくの所、可愛いよ。可いかね。
ところでいくらお前さんが可愛い顔をしてるたって、情婦《いろ》を拵《こしら》えたって、何もこの年紀《とし》をしてものの道理がさ、私がやっかむにも当らずか、打明けた所、お前さん、御新造様と出来たのかね。え、千ちゃん、出来たのならそのつもりさ。お楽《たのし》み! てなことで引退《ひきさが》ろうじゃあないか。不思議で堪《たま》らないから聞くんだが、どうだねえ、出来たわけかね。」
「何がさ。」
「何がじゃあないよ、お前さん出来たのなら出来たで可いじゃあないか、いっておしまいよ。」
「だって、出来たって分らないもの。」
「むむ、どうもこれじゃあ拵えようという柄《がら》じゃあないのね。いえね、何も忠義だてを
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