ても可《い》いけれど、千ちゃんは一所に居てあげないと死んでおしまいだから可哀相《かわいそう》だもの。)
 とこれじゃあもう何にもいうことはありませんわ。ここなの、ここなんだがね、千ちゃん、一体こりゃ、ま、お前さんどうしたというのだね。」
 女はいいかけてまた予が顔を瞻《みまも》りぬ。予はほと一|呼吸《いき》ついたり。
「摩耶さんが知っておいでだよ、私は何にも分らないんだ。」
「え、分らない。お前さん、まあ、だって御自分のことが御自分に。」
 予は何とかいうべき。
「お前、それが分る位なら、何もこんなにゃなりやしない。」
「ああれ、またここでもこうだもの。」

       五

 女はまたあらためて、
「一体詮じ詰めた処が千ちゃん、御新造様と一所に居てどうしようというのだね。」
 さることはわれも知らず。
「別にどうってことはないんだ。」
「まあ。」
「別に、」
「まあさ、御飯をたいて。」
「詰《つま》らないことを。」
「まあさ、御飯をたいて、食べて、それから、」
「話をしてるよ。」
「話をして、それから。」
「知らない。」
「まあ、それから。」
「寝っちまうさ。」
「串戯《じょうだん
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