で沢山だわ。さあというと、屹《きっ》と遊ばして、
(何をおしだ、お前達、私を何だと思うのだい、)
 とおっしゃるから、はあ、そりゃお邸の御新造様だと、そう申し上げると、
(女中たちが、そんな乱暴なことをして済みますか。良人《やど》なら知らぬこと、両親《ふたおや》にだって、指一本ささしはしない。)
 あれで威勢がおあんなさるから、どうして、屹《きっ》と、おからだがすわると、すくんじまわあね。でもさ、そんな分らないことをおっしゃれば、もう御新造様でも何でもない。
(他人ならばうっちゃっておいておくれ。)
 とこうでしょう。何てったって、とてもいうことをお肯《き》き遊ばさないお気なんだから仕ようがない。がそれで世の中が済むのじゃあないんだもの。
 じゃあ、旦那様がお迎《むかい》にお出で遊ばしたら、
(それでも帰らないよ。)
 無理にも連れようと遊ばしたら、
(そうすりゃ御身分にかかわるばかりだもの。)
 もうどう遊ばしたというのだろう。それじゃあ、旦那様と千ちゃんと、どちらが大事でございますって、この上のいいようがないから聞いたの。そうするとお前様《まえさん》、
(ええ、旦那様は私が居なくっ
前へ 次へ
全31ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング