通り、御身分は申すまでもございません。お実家《さと》には親御様お両方《ふたかた》ともお達者なり、姑御《しゅうとご》と申すはなし、小姑一|人《にん》ございますか。旦那様は御存じでもございましょう。そうかといって御気分がお悪いでもなく、何が御不足で、尼になんぞなろうと思し召すのでございますと、お仲さんと二人両方から申しますとね。御新造様が、
(いいえ、私は尼になんぞなりはしないから。)
(へえ、それではまたどう遊ばしてこんな処に、)
(ちっと用があって、)
とおっしゃるから、どういう御用でッて、まあ聞きました。
(そんなこといわれるのがうるさいからここに居るんだもの。可《い》いから、お帰り。)
とこんな御様子なの。だって、それじゃあ困るわね。帰るも帰らないもありゃあしないわ。
じゃあまあそれはたってお聞き申しませんまでも、一体|此家《ここ》にはお一人でございますかって聞くと、
(二人。)とこうおっしゃった。
さあ、黙っちゃあいられやしない。
こうこういうわけですから、尼様と御一所ではなかろうし、誰方とお二人でというとね、
(可愛い児《こ》とさ、)とお笑いなすった。
うむ、こりゃ
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