めし》だろうじゃアありませんか。凄《すご》かったわ。おやといって皆《みんな》後じさりをしましたよ。
 驚きましたね、そりゃ旧《もと》のことをいえば、何だけれど、第一お前様、うちの御新造様とおっしゃる方がさ、頼みます、誰方ということを、この五六年じゃあ、もう忘れておしまい遊ばしただろうと思ったもの。
 誰だじゃあございません。さて、あなたは、と開き直っていうことになると、
(また、迎《むかい》かい。)
 といって、笑っていらっしゃるというもんです。いえまたも何も、滅相な。
(皆《みんな》御苦労ね。だけれど私あまだ帰らないから、かまわないでおくれ。ちっとやすんだらお帰りだといい。お湯《ぶう》でもあげるんだけれど、それよりか庭のね、筧《かけひ》の水が大層々々おいしいよ。)
 なんて澄《すま》していらっしゃるんだもの。何だか私たちああんまりな御様子に呆《あき》れッちまって、ぼんやりしたの、こりゃあまあ魅《つま》まれてでもいないかしらと思った位だわ。
 いきなり後《うしろ》からお背《なせ》を推して、お手を引張《ひっぱ》ってというわけにもゆかないのでね、まあ、御挨拶《ごあいさつ》半分に、お邸はアノ
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