ので、お前様《まえさん》、旦那に伺うとまあどうだろう。
御遊山を遊ばした時のお伴のなかに、内々|清心庵《あまでら》にいらっしゃることを突留めて、知ったものがあって、先《せん》にもう旦那様に申しあげて、あら立ててはお家の瑕瑾《かきん》というので、そっとこれまでにお使《つかい》が何遍も立ったというじゃアありませんか。
御新造様は何といっても平気でお帰り遊ばさないというんだもの。ええ! 飛んでもない。何とおっしゃったって引張《ひっぱ》ってお連れ申しましょうとさ、私とお仲さんというのが二人で、男衆を連れてお駕籠を持ってさ、えッちらおッちらお山へ来たというもんです。
尋ねあてて、尼様《あまさん》の家《とこ》へ行って、お頼み申します、とやると、お前様。
(誰方《どなた》、)
とおっしゃって、あの薄暗いなかにさ、胸の処から少し上をお出し遊ばして、真白《まっしろ》な細いお手の指が五本|衝立《ついたて》の縁へかかったのが、はッきり見えたわ、御新造様だあね。
お髪《ぐし》がちいっと乱れてさ、藤色の袷《あわせ》で、ありゃしかも千ちゃん、この間お出かけになる時に私が後《うしろ》からお懸け申したお召《
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