するんじゃないが、御新造様があんまりだからツイ私だってむっとしたわね。行《ゆき》がかりだもの、お前さん、この様子じゃあ皆《みんな》こりゃアノ児《こ》のせいだ。小児《こども》の癖にいきすぎな、いつのまにませたろう、取っつかまえてあやまらせてやろう。私ならぐうの音《ね》も出させやしないと、まあ、そう思ったもんだから、ちっとも言分は立たないし、跋《ばつ》も悪しで、あっちゃアお仲さんにまかしておいて、お前さんを探して来たんだがね。
逢って見ると、どうして、やっぱり千ちゃんだ、だってこの様子で密通《まおとこ》も何もあったもんじゃあないやね。何だかちっとも分らないが、さて、内の御新造様と、お前様とはどうしたというのだね。」
知らず、これをもまた何とかいわむ。
「摩耶さんは、何とおいいだったえ。」
「御新造さんは、なかよしの朋達《ともだち》だって。」
かくてこそ。
「まったくそうなんだ。」
渠《かれ》は肯《がえん》する色あらざりき。
「だってさ、何だってまた、たかがなかの可いお朋達ぐらいで、お前様、五年ぶりで逢ったって、六年ぶりで逢ったって、顔を見ると気が遠くなって、気絶するなんて、人がありますか。千ちゃん、何だってそういうじゃアありませんか。御新造様のお話しでは、このあいだ尼寺でお前さんとお逢いなすった時、お前さんは気絶《ひきつけ》ッちまったというじゃアありませんか。それでさ、御新造様は、あの児がそんなに思ってくれるんだもの、どうして置いて行《ゆ》かれるものか、なんて好《すき》なことをおっしやったがね、どうしたというのだね。」
げにさることもありしよし、あとにてわれ摩耶に聞きて知りぬ。
「だって、何も自分じゃあ気がつかなかったんだから、どういうわけだか知りやしないよ。」
「知らないたって、どうもおかしいじゃアありませんか。」
「摩耶さんに聞くさ。」
「御新造様に聞きゃ、やっぱり千ちゃんにお聞き、とそうおっしゃるんだもの。何が何だか私たちにゃあちっとも訳がわかりやしない。」
しかり、さることのくわしくは、世に尼君ならで知りたまわじ。
「お前、私達だって、口じゃあ分るようにいえないよ。皆《みんな》尼様《あまさん》が御存じだから、聞きたきゃあの方に聞くが可いんだ。」
「そらそら、その尼様だね、その尼様が全体分らないんだよ。
名僧の、智識の、僧正の、何のッても、今時の御出
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