「聞きようが悪い、お先達。私が一ツ部屋にでも臥《ふせ》ったように、」
「違いますか。」
「飛んだ事を!」
 と強く言った。
「はてな。」
「婦《おんな》たちは母屋に寝て、私は浅芽生《あさぢう》の背戸を離れた、その座敷に泊ったんです。別々にも、何にも、まるで長土間が半町あります。」
「またそれで、どうして貴辺《あなた》は?」
「そうです……お聞苦しかろうが、覗《のぞ》いたんです。」
「お覗きなすった?いずれから。」
「長土間を伝って行って、母屋の一室《ひとま》を閨《ねや》にした、その二人の蚊帳を、……
 というのが――一人で離座敷に寝たには寝たが、どうしても静《じっ》と枕をしている事が出来なくなってしまったんですね。」
「山伏でも寝にくいで、御無理はない、迷いじゃな。」
「迷……迷いは迷いでしょうが、色の、恋のというのじゃありません。これは言訳でも何でもない、色恋ならまだしもですが、まったくは、何とも気味の悪い恐しい事が出来たんです。」
「はあ、蚊帳を抱く大入道、夜中に山霧が這込《はいこ》んでも、目をまわすほど怯《おびや》かされる、よくあるやつじゃ。」
「いや、蚊帳は釣らないで臥《ふせ
前へ 次へ
全139ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング