く、瞼《まぶた》をほんのりさして、片手ついたなりに顔を上げた美しさには、何にもかも忘れました。
(とんでもない。)
と突《つん》のめるように巻煙草を火入《ひいれ》に入れたが、トッチていて吸いつきますまい。
(お火が消えましたかしら。)
とちょっと翳《かざ》した、火入れは欠けて燻《くす》ぶったのに、自然木《じねんぼく》を抉抜《くりぬき》の煙草盆。なかんずく灰吹《はいふき》の目覚しさは、……およそ六貫目|掛《がけ》の筍《たけのこ》ほどあって、縁《へり》の刻々《ささら》になった代物、先代の茶店が戸棚の隅に置忘れたものらしい。
何の、火は赤々とあって、白魚《しらお》に花が散りそうでした。
やっと煙《けむ》のような煙《けむり》を吸ったが、どうやら吐掛けそうで恐縮で、開けた障子の方へ吹出したもんです。その煙がふっと飛んで、裏の峰から一颪《ひとおろし》颯《さっ》と吹込む。
と胸をずらして、燈《あかり》を片隅に押しましたが、灯が映るか、目のふちの紅《くれない》は薄らがぬ。で、すっと吸うように肩を細めて、
(おお、涼しい。お月様の音ですかね、月の出には颯《さっ》といってきっと峰から吹きますよ。
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