《かぶ》さっていようというんで、それこそ猿が宙返りでもしなければ上れそうにもなし、一方口はその長土間でしょう、――今更|遁出《にげだ》そうッたって隙《すき》があるんじゃなし、また遁げようと思ったのでもないが、さあ、静《じっ》としていられないから、手近の障子をがたりと勢《いきおい》よく開けました。……何か命令をされたようで、自分|気儘《きまま》には、戸一枚も勝手を遣っては相成らんような気がしていたのでありますけれども……
すると貴下《あなた》、何とその横縁に、これもまた吃驚《びっくり》だ。私のいかがな麦藁帽《むぎわらぼう》から、洋傘《こうもり》、小さな手荷物ね。」
「やあやあ、」
「それに、貴下《あなた》が打棄《うっちゃ》っておいでなすったと聞きました、その金剛杖《こんごうづえ》まで、一揃《ひとそろい》、驚いたものの目には、何か面当《つらあて》らしく飾りつけたもののように置いてある。……」
山伏ぐんなりして、
「いやもう、凡慮の及ぶ処でござらん。黙って承りましょう、そこで?」
「処へ、母屋から跫音《あしおと》が響いて来て、浅茅生《あさぢう》を颯々《さっさっ》、沓脚《くつぬぎ》で、カタ
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