、鬼薊《おにあざみ》が投込んである。怪《け》しからん好みでしょう、……がそれはまだ可《い》い。傍《わき》の袋戸棚と板床の隅に附着《くッつ》けて、桐の中古《ちゅうぶる》の本箱が三箇《みっつ》、どれも揃って、彼方《むこう》向きに、蓋《ふた》の方をぴたりと壁に押着《おッつ》けたんです。……」
「はあ、」
 とばかりで、山伏は膝の上で手を拡げた。
「昔|修行者《しゅぎょうじゃ》が、こんな孤家《ひとつや》に、行暮《ゆきく》れて、宿を借ると、承塵《なげし》にかけた、槍《やり》一筋で、主人《あるじ》の由緒が分ろうという処。本箱は、やや意を強うするに足ると思うと、その彼方《むこう》向けの不開《あかず》の蓋で、またしても眉を顰《ひそ》めずにはいられませんのに、押並べて小机があった。は可懐《なつか》しいが、どうです――その机の上に、いつの間に据えたか、私のその、蝦蟇口《がまぐち》と手拭が、ちゃんと揃えて載せてあるのではありませんか、お先達。」
 と境は居直る。

       二十四

「背後《うしろ》は峰で、横は谷です。峰も、胴《どうなか》の窪《くぼ》んだ、頭《かしら》がざんばらの栗の林で蔽《おお》い被
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