なか》に据えた座蒲団《ざぶとん》の友染模様《ゆうぜんもよう》が、桔梗《ききょう》があって薄《すすき》がすらすら、地が萌黄《もえぎ》の薄い処、戸外《おもて》の猿ヶ馬場そっくりというのを、ずッと避けて、ぐるぐる廻りは、早や我ながら独りでぐでんに酔ったようで、座敷が揺れる、障子が動く、目が廻る。ぐたりと手を支《つ》く、や、またぐたりと手を支く。
 これじゃならん、と居坐居《いずまい》を直して、キチンとすると、掻合《かきあ》わせる浴衣を……潜《くぐ》って触る自分の身体《からだ》が、何となく、するりと女性《にょしょう》のようで、ぶるッとして、つい、と腕を出して、つくづくと視《なが》める始朱。さ、こうなると、愚にもつかぬ、この長い袖の底には、針のようを褐色《かばいろ》の毛がうじゃうじゃ……で、背中からむずつきはじめる。
 もっとも、今浴衣を持って来て、
(私もちょいと失礼をいたしますよ。)
 で、貴婦人は母屋《おもや》へ入った――当分離座敷に一人の段取《だんどり》で。
 その内に、床の間へ目が着きますとね、掛地《かけじ》がない。掛地なしで、柱の掛花活《かけはないけ》に、燈火《あかり》には黒く見えた
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