込むようにして褥《しとね》を直した。四畳半で、腰を曲げて乗出すと、縁越に手が届くんですね。
(ともかく御免を、)
 高縁へ腰を蹂《にじ》って、爪尖下《つまさきさが》りに草鞋《わらじ》の足を、左の膝へ凭《もた》せ掛けると、目敏《めざと》く貴婦人が気を着けて、
(ああ、お濯《すす》ぎ遊ばしましょうね。)
 と二坪ばかりの浅茅生を斜《はす》に切って、土間口をこっちから、
(お綾《あや》さん――)
 と呼びます。
(ああ、もしもし。)
 私は草鞋を解きながら、
(乾いた道で、この足袋がございます。よく払《はた》けば、何、汚れはしません。お手数《てかず》は恐れ入ります、どうぞ御無用に……しかしお座敷へ上りますのに、)
 と心着くと、無雑作で、
(いいえ、もう御覧の通り、土間も同一《おんなじ》でございますもの、そんな事なぞ、ちっともお厭《いと》いには及びませんの。)
 と云いかけて莞爾《にっこり》して、
(まあ、土間も同一だって、お綾さんが聞いたら何ぼでも怒るでしょう。……人様のお住居《すまい》を、失礼な。これでもね、大事なお客様に、と云って自分の部屋を明渡したんでございますよ。)
 いかにも、こ
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