る》が覗《のぞ》いていそうで。婦人《おんな》がまた蒼黄色《あおぎいろ》になりはしないか、と密《そっ》と横目で見ましたがね。襲《かさね》を透いた空色の絽《ろ》の色ばかり、すっきりして、黄昏《たそがれ》の羅《うすもの》はさながら幻。そう云う自分はと云うと、まるで裾から煙のようです。途端に横手の縁を、すっと通った人気勢《ひとけはい》がある。ああ、白脛《しらはぎ》が、と目に映る、ともう暗い処へ入った。
 向うの、離座敷の障子の桟が、ぼんやりと風のない燈火《ともしび》に描かれる。――そこへ行《ゆ》く背戸は、浅茅生《あさぢう》で、はらはらと足の甲へ露が落ちた。
(さあ、こちらへ。)
 ここで手を離して、沓脱《くつぬぎ》の石に熊笹の生え被《かぶさ》った傍《わき》へ、自分を開いて教えました。障子は両方へ開けてあった。ここの沓脱を踏みながら、小手招《こてまねき》をしたのでしょう。
(上りましても差支えはございませんか。)
 とその期《ご》に及んで、まだ煮切《にえき》らない事を私が言うと、
(主人《あるじ》がお宿をいたします。お宅同様、どうぞお寛《くつろ》ぎ下さいまし。)
 と先へ廻って、こう覗《のぞ》き
前へ 次へ
全139ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング