で見えました。それは戸外《そと》からも見える……崖へ向けて、雨戸を開けた処があったからです。
 が、ちょうど土間の広くなった処で、同じ事ならもっと手前を開けておいてくれれば可い……入口《はいりくち》しばらくの間、おまけに狭い処が、隧道《トンネル》でしょう。……処へ、おどついてるから、ばたばたとそこらへ当る。――黙って手を曳《ひ》いたではありませんか。」

       二十二

「対手《あいて》は悠々としたもので、
(蜘蛛の巣が酷《ひど》いのでございますよ。)
 か何かで、時々|歩行《ある》きながら、扇子……らしい、風を切ってひらりとするのが、怪しい鳥の羽搏《はう》つ塩梅《あんばい》。
 これで当りはつきました。手を曳いてるのは貴婦人の方らしい、わざわざ扇子を持参で迎いに出ようとは思われませんから。
 果して、そうでした。雨戸の開けてある、広土間《ひろどま》の処で、円髷《まるまげ》が古い柱の艶《つや》に映った。外は八重葎《やえむぐら》で、ずッと崖です。崖にはむらむらと靄《もや》が立って、廂合《ひあわい》から星が、……いや、目の光り、敷居の上へ頬杖《ほおづえ》を支《つ》いて、蟇《ひきがえ
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