もふわふわらしいに、足もぐらぐらとなっていて、他愛がありません。止《や》むことを得ず、暮れかかる峰の、莫大な母衣《ほろ》を背負《しょ》って、深い穴の気がする、その土間の奥を覗《のぞ》いていました。……冷《ひやっ》こい大戸の端へ手を掛けて、目ばかり出して……
 その時分には、当人|大童《おおわらわ》で、帽子も持物も転げ出して草隠れ、で足許が暗くなった。
 遥《はる》か突当り――崖を左へ避《よ》けた離れ座敷、確か一宇《ひとむね》別になって根太《ねだ》の高いのがありました、……そこの障子が、薄い色硝子《いろがらす》を嵌《は》めたように、ぼうとこう鶏卵色《たまごいろ》になった、灯《あかり》を点《つ》けたものらしい。
 その障子で、姿を仕切って、高縁《たかえん》から腰を下《おろ》して、裾《すそ》を踏落した……と思う態度《ふり》で、手を伸《のば》して、私においでおいでをする。それが、白いのだけちらちらする、する度に、
(ええ、ええ。)
 と自分で言うのが、口へ出ないで、胸へばかり込上げる――その胸を一寸ずつ戸擦れに土間へ向けて斜違《はすか》いに糶出《せりだ》すんですがね、どうして、掴《つか》まった
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