来たの、何の。大巌《おおいわ》の一枚戸のような奴がまた恐しく辷《すべ》りが良くって、発奮《はず》みかかって、がらん、からから山鳴り震動、カーンと谺《こだま》を返すんです。ぎょっとしました。
その時です。
(どこへもいらしっちゃ不可《いけ》ませんよ。)
と振返りざまに莞爾《にっこり》、美しいだけにその凄《すご》さと云ったら。高い敷居に褄《つま》も飜《かえ》さず、裾が浮いて、これもするりと、あとは御存じの、あの奥深い、裏口まで行抜けの、一条《ひとすじ》の長い土間が、門形角形《かどなりかくがた》に、縦に真暗《まっくら》な穴で。」
と言った、この辺《あたり》家の構《かまえ》は、件《くだん》の長い土間に添うて、一側《ひとかわ》に座敷を並べ、鍵《かぎ》の手に鍵屋の店が一昔以前あった、片側はずらりと板戸で、外は直ちに千仭《せんじん》の倶利伽羅谷《くりからだに》、九十九谷《つくもだに》の一ツに臨んで、雪の備え厳重に、土の廊下が通うのである。
二十一
「今の一言に釘を刺されて、私は遁《にげ》ることも出来なくなった、……もっとも駆出すにした処で、差当りそこいら雲を踏む心持、馬場も草
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