ですが、」
「はあ、それがお酌を参ったか。」
「いいえ、世話をしてくれましたのは、年上の方ですよ。その倒れていた女は――ですね。」
「そうそうそう、またこれは面被《めんかぶ》りじゃ。どうもならん、我ながら慌てて不可《いか》ん。成程、それはまだ一言も口を利かずに、貴辺《あなた》の膝に抱かれていたて。何をこう先走るぞ。が、お話の不思議さ、気が気でないで急立《せきた》ちますよ、貴辺は余り落着いておいでなさる。」
「けれども、私だって、まるで夢を見たようなんですから、霧の中を探るように、こう前後《あとさき》を辿《たど》り辿りしないと、茫《ぼう》として掴《つかま》えられなくなるんですよ。……お話もお話だが、御相談なんですから、よくお考えなすって下さい。
――その円髷《まるまげ》の、盛装した、貴婦人という姿のが、さあ、私たちの前へ立ったでしょう。――
膝を枕にしたのが、倒れながら、それを見た……と思って下さい。
手を放すと、そのまま、半分背を起した。――両膝を細《ほっそ》りと内端《うちわ》に屈《かが》めながら、忘れたらしく投げてた裾《すそ》を、すっと掻込《かいこ》んで、草へ横坐りになると、今
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