ら》と笑出した。
「はッはッはッ、慌てました、いや、大狼狽《だいろうばい》。またしても獅噛《しかみ》を行《や》ったて。すべて、この心得じゃに因って、鬼の面を被《かぶ》ります。
時にお茶が沸きました。――したが鮎の鮨とは好もしい、貴下も御賞翫《ごしょうがん》なされたかな。」
二十
「承った処では、麓《ふもと》からその重詰を土産に持って、右の婦人が登山されたものと見えますな――但しどうやら、貴辺《あなた》がその鮨を召《あが》ると、南蛮《なんばん》秘法の痺薬《しびれぐすり》で、たちまち前後不覚、といったような気がしてなりません。早く伺いたい。鮨はいかがで?」
その時境は煎茶《せんちゃ》に心を静めていた。
「御馳走《ごちそう》は……しかも、ああ、何とか云う、ちょっと屠蘇《とそ》の香のする青い色の酒に添えて――その時は、筧《かけひ》の水に埃《ほこり》も流して、袖の長い、振《ふり》の開いた、柔かな浴衣に着換えなどして、舌鼓を打ちましたよ。」
「いずれお酌で、いや、承っても、はっと酔う。」
と日に焼けた額を押撫《おしな》でながら、山伏は破顔する。
「しかし、その倒れていた婦人
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