張をした処、……」
「さよう。」
「あすこよりは、ずっと麓《ふもと》の方です。」
「すると、そのどちらかは分りませんが、貴辺《あなた》に分れて下山の途中で、婆さん一人にだけは逢いました。成程――承れば、何か手に包んだものを持っていた様子で――大方その従伴《とも》をして登った方のでありましょうな。
それにしては、お話しのその円髷《まげ》に結《い》った婦人に、一条路《ひとすじみち》出会わねばならん筈《はず》、……何か、崖の裏、立樹の蔭へでも姿を隠しましたかな。いずれそれ人目を忍ぶという条《すじ》で、」
「きっとそうでしょう。金沢から汽車で来たんだそうですから。」
先達は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、
「金沢から、」
「ですから汽車へいらっしゃる、貴下と逢違う筈はありません。」
「旅をかけて働きますかな。」
「ええ、」
「いや、盗賊《どろぼう》も便利になった。汽車に乗って横行じゃ。倶利伽羅峠に立籠《たてこも》って――御時節がら怪《け》しからん……いずれその風呂敷包みも、たんまりいたした金目のものでございましょうで。」
黙った三造は、しばらくして、
「お先達
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