《いだ》いたなり、次第々々に化石でもしそうな、身動きのならんその形がそうだったんです。……
段々|孤家《ひとつや》の軒が暗くなって、鉄板で張ったような廂《ひさし》が、上から圧伏《おっぷ》せるかと思われます……そのまま地獄の底へ落ちて行《ゆ》くかと、心も消々《きえぎえ》となりながら、ああ、して見ると、坂下で手を掉《ふ》った気高い女性《にょしょう》は、我らがための仏であった。――
この難を知って、留められたを、推して上ったはまだしも、ここに魔物の倒れたのを見た時、これをその犠牲《いけにえ》などと言う不心得。
と俯向《うつむ》いて、熟《じっ》と目を睡《ねむ》ると……歴々《まざまざ》と、坂下に居たその婦《おんな》の姿、――羅《うすもの》の衣紋《えもん》の正しい、水の垂れそうな円髷《まるまげ》に、櫛のてらてらとあるのが目前《めのまえ》へ。――
驚いた、が、消えません。いつの間にか暮れかかる、海の凪《な》ぎたような緑の草の上へ、渚《なぎさ》の浪のすらすらとある靄《もや》を、爪《つま》さきの白う見ゆるまで、浅く踏んで、どうです、ついそこへ来て、それが私の目の前に立ってるじゃありませんか。私を
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