に、腕《かいな》に後毛《おくれげ》を掛けたまま私を見詰める。眉が浮くように少し仰向《あおむ》いた形で、……抜けかかった櫛《くし》も落さず、動きもしません。
 黙っちゃいられませんから、
(気がついたんですか。失礼を、)
 まだ詫《わび》をする工合《ぐあい》の悪さ。でも、やっぱり黙っています。
(気分はどうなんです。ここに倒れていなすったんだが。)
 これで分ったろう、放したまえ、早く擦抜けようと、もじつくのが、婦《おんな》の背《せな》を突いて揺《ゆすぶ》るようだから、慌ててまた窘《すく》まりましたよ。どこを糸で結んで手足になったか、女の身体《からだ》がまるで綿で……」

       十八

「綿で……重いことは膝が折れそう――もっともこの重いのは、あの昔話の、怪《あやし》い者が負《おぶ》さると途中で挫《ひし》げるほどに目貫《めかた》がかかるっていう、そんなのじゃない。そりゃ私にも分っていましたが、……
 ああ、これはなぜ私が介抱したか、その人はどうしていたか、そんな事なんぞ言ってるんではまだるッこい。
(失礼しました、今何です、貴女の胸に蟻が這っていたもんですから、)
 つい払って上
前へ 次へ
全139ページ中63ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング