んかんす》。
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境の足は猿ヶ馬場に掛《かか》った。今や影一つ、山の端《は》に立つのである。
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終南日色低平湾《しゅうなんのにっしょくわんにひくし》。神兮長有有無間《かみやとこしなえにうむのあいだにあり》。
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越《こし》の海は、雲の模様に隠れながら、青い糸の縫目を見せて、北国《ほっこく》の山々は、皆|黄昏《たそがれ》の袖を連ねた。
「神兮長に有無の間にあり。」
胸を見ると、背中まで抜けそうな眼《まなこ》が濶《かっ》と、鬼の面が馬場を睨《にら》んで、ここにも一人神が彳《たたず》む、三造は身自から魔界を辿《たど》る思《おもい》がある。
峠のこの故道《ふるみち》は、聞いたよりも草が伸びて、古沼の干た、蘆《あし》の茂《しげり》かと疑うばかり、黄にも紫にも咲交じった花もない、――それは夕暮のせいもあろう。が第一に心懸けた、目標《めじるし》の一軒家は靄《もや》も掛《かか》らぬのに屋根も分らぬ。
場所が違ったかとも怪しんだ、けれども、蹈迷《ふみまよ》う路続きではない。でいよいよ進むとしたが、ざわざわ分入らねばならぬ雑草に遮
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