したで、携えました金剛を、一番|突立《つった》てておこう了簡《りょうけん》。
 薄《すすき》の中へぐいと入れたが、ずぶりと参らぬ。草の根が張って、ぎしぎしいう、こじったが刺《ささ》りません。えいと杖の尖《さき》で捏《こ》ねる内に、何の花か、底光りがして艶《つや》を持った黄色いのが、右の突捲《つきまく》りで、薄《すすき》なりに、ゆらゆら揺れたと思うと、……」
「おお!」
「得も言われぬ佳《い》い匂《におい》がしました。はてな、あの一軒家の戸口を覗《のぞ》くと、ちらりと見えた――や、その艶麗《あでやか》なことと申すものは。――
 時ならぬ月が廂《ひさし》から衝《つ》と出たように、ぱっと目に映るというと、手も足も突張りました。
 必ず、どんな姿で、どんな顔立じゃなぞとお尋ね御無用。まだまだ若衆の方が間違いにもいたせ、衣服《きもの》の色合だけも覚えて来たのが目っけものじゃ。いやはや、私《てまえ》の方はただ颯《さっ》と白いものが一軒家の戸口に立ったと申すまでで――衣服が花やら、体が雪やら、さような事は真暗三宝《まっくらさんぽう》、しかも家の内の暗い処へ立たれた工合《ぐあい》が、牛か、熊にでも乗ら
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