じころ》を頂いたも同然、同じ天窓《あたま》から一口でも、変化《へんげ》の口に幅ったかろうと、緒だけ新しいのを着けたやつを、苛高《いらだか》がわりに手首にかけて、トまず、金剛杖を突立てて、がたがたと上りました。約束通り、まず何事もなく、峠へかかったでござります。」
「猿ヶ馬場へ、」
「さようで、立場《たてば》の焼跡へ、」
「はあ成程。」
「縄張のあります処から、ここぞともはや面《おもて》を装い、チャクと黒鬼に構えました。
仔細《しさい》なく、鼻の穴から麓《ふもと》まで見通し、濶《かッ》と睨《にら》んだ大の眼《まなこ》は、ここの、」
と額に皺《しわ》を寄せて、
「汗を吹抜きの風通《かざとお》し……さして難渋にもござらなんだが、それでも素面のようではない。一人前、顔だけ背負《しょ》って歩行《ある》く工合で、何となく、坂路が捗取《はかど》りません。
馬場《ばんば》へ懸《かか》ると、早や日脚が摺《ず》って、一面に蔭った上、草も手入らずに生え揃うと、綺麗《きれい》に敷くでござりましてな、成程、早咲の桔梗《ききょう》が、ちらほら。ははあ、そこらが埋《うもれ》井戸か……薄《すすき》がざわざわと波
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