したんですね。」
先達は額に手を当て、膨れた懐中《ふところ》を伏目に覗《のぞ》いて、
「御意で、恐縮をいたします……さような行力《ぎょうりき》がありますかい。はッはッ、もっとも足は達者で、御覧の通り日和下駄《ひよりげた》じゃ、ここらは先達めきましたな。立山《たてやま》、御嶽《おんたけ》、修行にならば這摺《はいず》っても登りますが、秘密の山を人助けに開こうなどとはもっての外の事でござる。
また早い話が、この峠を越さねばと申して、多勢《たぜい》のものが難渋をするでもなし、で、聞いたままのお茶話。秋にでもなって、朝ぼらけの山の端《は》に、ふと朝顔でも見えましたら、さてこそさてこそ高峰《たかね》の花と、合点《がってん》すれば済みます事。
処を、年効《としがい》もない、密《そっ》と……様子が見たい漫《そぞ》ろ心で、我慢がならず企てました。
それにいたせ、飛んだ目には逢いとうござらん心得から、用心のために思いつきましたはこの一物、な、御覧の通り、古くから御堂《みどう》の額面に飾ってござります獅噛面《しかみおもて》、――待て待て対手《あいて》は何にもせよ、この方鬼の姿で参らば、五枚錣《ごまい
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