見境《みさかい》がございません。
何でも御殿女中は御殿女中で、薄ら蒼《あお》いにどこか黄味がかった処のある衣物《きもの》で、美しゅう底光りがしたと申す。これはな、蟇の色が目に映って、それが幻に出たらしい。
して見ると、風説《うわさ》を聞いて、風説の通り、御殿女中、と心得たので、その実|確《たしか》にどんな姿だか分りませぬ。
さあ、是沙汰《これざた》は大業《おおぎょう》で、……
[#ここから5字下げ]
(朝|疾《と》う起きて空見れば、
口紅つけた上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》が、)
[#ここで字下げ終わり]
と村の小児《こども》は峠を視《なが》める。津幡川《つばたがわ》を漕《こ》ぐ船頭は、(笄《こうがい》さした黒髪が、空から水に映る)と申す、――峠の婦人《おんな》は、里も村も、ちらちらと遊行《ゆぎょう》なさるる……」
十
「その替り村里から、この山へ登るものは、ばったり絶えたでありましてな。」
「それで、」
聞惚《ききと》れていた三造は、ここではじめて口を入れたが、
「貴下《あなた》が、探険――山開きをなさいま
前へ
次へ
全139ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング