》げた、――と申す。
 若衆は話の中《うち》も、わなわなと歯の根が合わぬ。
(生血《いきち》を吸われた、お先達、ほう、腕が冷い、氷のようじゃ。)
 と引被《ひっかぶ》せてやりました夜具の襟から手を出して、情《なさけ》なさそうに、銀の指環を視《なが》める処が、とんと早や大病人でな。
 お不動様の御像《おすがた》の前へ、かんかん燈明を点じまして、その夜《よ》は一晩、私《てまえ》が附添ったほどでござります。
 峠越し汽車に乗って帰ると云うたで、その夜は帰らないのを、村の者も、さまで案じずにいましたげな。午《ひる》過ぎてから四五人連立って様子を見に参ったのが、通りがかり、どやどや御堂《みどう》へ立寄りましたに因って、豪傑はその連中に引渡して、事済んだでございます。
 が、唯今《ただいま》もお尋ねの肝腎のその怪《あやし》い婦人が、姿容《すがたかたち》、これがそれ御殿女中と申す一件――振袖《ふりそで》か詰袖《つめそで》か、裙《すそ》模様でも着てござったか、年紀《とし》ごろは、顔立は、髪は、島田とやらか、それとも片はずしというようなことかと、委《くわ》しく聞いてみたでございますが、当人その辺はまるで
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