色、……それが、ぽっちり燃えるように紅《あか》くなったが、莞爾《にっこり》したげな。
若衆は、一支えもせず、腰を抜いたが、手を支《つ》く間もない、仰向《あおの》けに引《ひっ》くりかえる。独りでに手足が動く、ばたばたはじまる。はッあァ、鼬の形と同一《おんなじ》じゃ。と胸を突くほど、足が窘《すく》む、手が縮まる、五体を手毬《てまり》にかがられる……六万四千の毛穴から血が颯《さっ》と霧になって、件《くだん》のその紅い唇を染めるらしい。草に頸《うなじ》を擦着け擦着け、
(お助け下さい、お助け!)……
と頭《ず》で尺取って、じりじりと後退《あとずさ》り、――どうやらちっと、緊《し》めつけられた手足の筋の弛《ゆる》んだ処で、馬場の外れへ俵転がし、むっくりこと天窓《あたま》へ星を載《の》せて、山端《やまばな》へ突立《つった》つ、と目が眩《くら》んだか、日が暮れたか、四辺《あたり》は暗くなって何も見えぬ。
で、見返りもせず、逆落し、旧《もと》の坂をどどどッと駆下りる――いやもう途中、追々ものの色が分るにつけ、山茨《やまいばら》の白いのも女の顔に顕《あら》われて、呼吸《いき》も吐《つ》けずに遁《に
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