》処をごろごろ廻る。
 つい、路傍《みちばた》の足許《あしもと》故に、
(叱《しつ》! 叱!)
 と追ってみたが、同一《おなじ》処をちょっとも動かず、四足をびりびりと伸べつ、縮めつ、白い面《つら》を、目も口も分らぬ真仰向《まあおむ》けに、草に擦《すり》つけ擦つけて転げる工合《ぐあい》が、どうも狗《いぬ》ころの戯《じゃ》れると違って、焦茶《こげちゃ》色の毛の火になるばかり、悶《もだ》え苦《くるし》むに相違ござらん。
 大蛇《うわばみ》でも居て狙《ねら》うか、と若い者ちと恐気《おじけ》がついたげな、四辺《あたり》に紛《まが》いそうな松の樹もなし、天窓《あたま》の上から、四斗樽《しとだる》ほどな大蛇《だいじゃ》の頭が覗《のぞ》くというでもござるまい。
 なお熟《じっ》と瞻《みまも》ると、何やら陽炎《かげろう》のようなものが、鼬の体から、すっと伝《つたわ》り、草の尖《さき》をひらひらと……細い波形に靡《なび》いている。はてな、で、その筋を据眼《すえまなこ》で、続く方へ辿《たど》って行《ゆ》くと……いや、解《よ》めましたて。
 右の一軒家の軒下に、こう崩れかかった区劃石《くぎりのいし》の上に、ト
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