|小児《こども》の手前もあって、これ見よがしに腕を扼《さす》って――己《おら》が一番見届ける、得物なんぞ、何、手掴《てづか》みだ、と大手を振って出懸けたのが、山路へかかって、八ツさがりに、私《わし》ども御堂《みどう》へ寄ったでござります。
そこで、御神酒《おみき》を進ぜました。あびらうんけんそわかと唱えて、押頂いて飲んだですて……
(お気をつけられい。)
と申して石段を送って出ますと、坂へ立身上《たつみあが》りに片足を踏伸ばいて、
(先達、訳あねえ。)
と向顱巻《むこうはちまき》したであります――はてさて、この気構えでは、どうやら覚束《おぼつか》ないと存じながら、連《つれ》にはぐれた小相撲という風に、源氏車の首抜《くびぬき》浴衣の諸肌脱《もろはだぬぎ》、素足に草鞋穿《わらじばき》、じんじん端折《ばしょり》で、てすけとくてく峠へ押上《おしのぼ》る後姿《うしろつき》を、日脚なりに遠く蔭るまで見送りましたが、何が、貴辺《あなた》、」
「え、その男は?」
八
先達は渋面して、
「まず生命《いのち》に別条のないばかり、――日が暮れましたで、私《てまえ》御本堂へだけ燈明を
前へ
次へ
全139ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング