うすさいしき》の褥《しとね》のようで、上座《かみくら》に猿丸太夫、眷属《けんぞく》ずらりと居流れ、連歌でもしそうな模様じゃ。……(焼撃《やきうち》をしたのも九十九折《つづらおり》の猿が所為《しわざ》よ、道理こそ、柿の樹と栗の樹は焼かずに背戸へ残したわ。)……などと申す。
 山家徒《やまがであい》でござるに因って、何か一軒家を買取ったも、古猿の化けた奴《やつ》。古《むかし》この猿ヶ馬場には、渾名《あだな》を熊坂《くまさか》と言った大猿があって、通行の旅人を追剥《おいはが》し、石動《いするぎ》の里へ出て、刀の鍔《つば》で小豆餅《あずきもち》を買ったとある、と雪の炉端《ろばた》で話が積《つも》る。
 トそこら白いものばっかりで、雪上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ゆきじょうろう》は白無垢《しろむく》じゃ……なんぞと言う処から、袖裾《そですそ》が出来たものと見えまして、近頃峠の古屋には、世にも美しい婦《おんな》が住《すま》う。
 人が通ると、猿ヶ馬場に、むらむらと立つ、靄《もや》、霞、霧の中に、御殿女中の装いした婦《おんな》の姿がすっと立つ――
 見たものは命がな
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