よう、竹の橋をさして下山いたすでございます、貴辺《あなた》はな。」
境は振向いて峠を仰いだ。目を突くばかりの坂の葎《むぐら》に、竹はすっくと立っている。
六
「ええ、日脚は十分、これから峠をお越しになっても、夏の日は暮れますまい――が、その事でござる、……さよう、その儀に就いて、」
境の前に蹲《しゃが》んだ時、山伏は行衣《ぎょうえ》の胸に堆《うずたか》い、鬼の面が、襟許《えりもと》から片目で睨《にら》むのを推入《おしい》れなどして、
「実は、貴辺《あなた》よりも私《てまえ》がお恥かしい。臆病《おくびょう》から致いてかようなものを持出しましたで。
それと申すが、やはりこの往来止の縄張でございまするがな。ここばかりではのうて、峠を越しました向うの坂、石動《いするぎ》から取附《とッつき》の上《のぼ》り口にも、ぴたりと封じ目の墨があるでござります。
仔細《しさい》あって、私《てまえ》は、この坂を貴辺《あなた》、真暗三宝《まっくらさんぼう》駆下りましたで、こちらのこの縄張は、今承りますまで目にも入らず、貴辺がお在《いで》なさる姿さえ心着かなんだでござります。
が、あち
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