の柄を片手に持換えながら、
「思いがけない処にござった。とんと心着きませんで、不調法。」
 と一揖《いちゆう》して、
「面です……はははは面でござる。」
 と緒を手首に、可恐《おそろし》い顔は俯向《うつむ》けに、ぶらりと膝に飜ったが、鉄で鋳たらしいその厳《おごそか》さ。逞ましい漢《おのこ》の手にもずしりとする。
「お驚きでございましたろうで、恐縮でござります。」
「はあ、」
 と云うと、一刎《ひとは》ね刎ねたままで、弾機《ぜんまい》が切れたようにそこに突立《つった》っていた身構《みがまえ》が崩れて、境は草の上へ投膝《なげひざ》で腰を落して、雲が日和下駄《ひよりげた》穿《は》いた大山伏を、足の爪尖《つまさき》から見上げて黙る。
「別に、お怪我《けが》は?」
 手を出して寄って来たが、腰でも抱こう様子に見えた。
「怪我なんぞ。」
 境は我ながら可笑《おかし》くなって、
「生命《いのち》にも別条はありません。」
「重畳《ちょうじょう》でござる。」
 と云う、落着いて聞くと、声のやや掠《かす》れた人物。
「しかし大丈夫、立派な処を御目に懸けました。何ですか、貴下《あなた》は、これから、」
「さ
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