事は考えられず、何事も手に着かない、で、三度の食も欲《ほし》くなくなる。
 ところが、親が蒔絵職《まきえしょく》。小児《こども》の時から見習いで絵心があったので、ノオトブックへ鉛筆で、まず、その最初の眉間割《みけんわり》を描《か》いたのがはじまりで。
 顔だけでは、飽足《あきた》らず、線香のような手足を描いて、で、のけぞらした形へ、疵《きず》をつける。それも墨だけでは心ゆかず、やがて絵の具をつかい出した。
 けれども、男の膚《はだ》は知らない処女の、艶書《ふみ》を書くより恥かしくって、人目を避くる苦労に痩《や》せたが、病《やまい》は嵩《こう》じて、夜も昼もぼんやりして来た。
 貴婦人も、それっきり学校はやめたが、お綾も同断。その代り寂《さびし》い途中、立向うても見送っても、その男を目に留めて、これを絵姿にして、斬る、突く、胸を刺す。……血を彩って、日を経《ふ》ると、きっとそのものは生命《いのち》がないというのが知れる……段々嵩じて、行違いなりにも、ハッと気合を入れると、即座に打倒《ぶったお》れる人さえ出来た。
 が、可恐《おそろし》いのは、一夜《あるよ》、夜中に、ある男を呪詛《のろ》っ
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