抜取ると、垂々《たらたら》と湧《わ》く血雫《ちしずく》を逆手に除《と》り、山の端《は》に腰を掛けたが、はじめて吻《ほっ》と一息つく。――瞰下《みおろ》す麓《ふもと》の路へ集《たか》って、頭ばかり、うようよして八九人、得物を持って押寄せた。
 猶予《ためら》わず、すらりと立つ、裳《もすそ》が宙に蹴出《けだし》を搦《から》んで、踵《かかと》が腰に上《あが》ると同時に、ふっと他愛なく軽々と、風を泳いで下りるが早いか、裾がまだ地に着かぬ前《さき》に、提《ひっさ》げた刃《やいば》の下に、一人が帽子から左右へ裂けた。
 一同が、わっと遁《に》げる。……」

       三十六

「今はもう追うにも及ばず、するすると後《あと》を歩行《ある》きながら、刃《やいば》を振って、
(は、)
 と声懸けると、声に応じて、一人ずつ、どたり、ばたりで、算を乱した、……生木の枝の死骸《しがい》ばかり。
 いつの間にか、二階へ戻った。
 時に、大形の浴衣の諸膚脱《もろはだぬ》ぎで、投出《なげだ》した、白い手の貴婦人の二の腕へ、しっくり喰《くい》ついた若いもの、かねて聞いた、――これはその人の下宿へ出入りの八百屋だそ
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