た。……その時、曲角《まがりかど》で顔を見ました。春の真昼間《まっぴるま》、暖い霞のような白い路が、藪の下を一条《ひとすじ》に貫いた、二三間|前《さき》を、一人通った娘があります。衣服《きもの》は分らず、何の織物か知りませんが、帯は緋色《ひいろ》をしていたのを覚えている。そして結目《むすびめ》が腰へ少し長目でした。ふらふらとついて見送って行《ゆ》く内に、また曲角で、それなり分らなくなったんです。)
 ――二人は顔を見合せました。」

       三十五

「私はまた……
(もう一度は、その翌年、やっぱり春の、正午《ひる》少し後《さが》った頃、公園の見晴しで、花の中から町中《まちなか》の桜を視《なが》めていると、向うが山で、居る処が高台の、両方から、谷のような、一ヶ所空の寂しい士町《さむらいまち》と思う所の、物干《ものほし》の上にあがって、霞を眺めるらしい立姿の女が見えた。それがどうも同じ女らしい。ロハ台を立って、柳の下から乗り出して、熟《じっ》と瞻《みまも》る内に、花吹雪がはらはらとして、それっきり影も見えなくなる、と物干の在所《ありか》も町の見当も分らなくなってしまった。……が、忘
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