、
「その時、私は更《あらた》めて、二人の婦人にこう言いました。
(時が時、折が折なんですから、実は何にも言出しはしませんでしたが、その日、広土間の縁の出張《でば》りに一人腰を掛けて、力餅《ちからもち》を食べていた、鳥打帽を冠《かぶ》って、久留米の絣《かすり》を着た学生がありました。お心は着かなかったでしょうが、……それは私です。……
そして、その時の絵のような美しさが、可懐《なつか》しさの余り、今度この山越《やまごえ》を思い立って参ったんです。)
お先達、事実なんです。」
と三造は言った。
「これを聞いて少《わか》い女《ひと》が、
(そして貴下が、私を御覧なさいましたのは、その時が初めてですか、)
(いいえ、)
と私が直ぐに答えた。
(違うかどうか分りませんが、その以前に二度あります。……一度は金沢の藪《やぶ》の内と言う処――城の大手前と対《むか》い合った、土塀の裏を、鍵《かぎ》の手形《てなり》。名の通りで、竹藪の中を石垣に従《つ》いて曲る小路《こうじ》。家も何にもない処で、狐がどうの、狸がどうの、と沙汰《さた》をして誰も通らない路《みち》、何に誘われたか一人で歩行《ある》い
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