《であいがしら》に聞かされたので、真赤《まっか》になって逃げたと言います。その癖お綾は一度も逢った事はないのだそうで。
 さあへ医師《いしゃ》は止《よ》しても、お綾は病人から手離せますまい。
 いつまで入院をしていても、ちっとも快方《いいほう》に向わないから、一旦《いったん》内へ引取って、静かに保養をしようという事になった時、貴婦人の母親は、涙でお綾の親達に頼んだんです。
 頼まれては否《いや》と言わぬ、職人|気質《かたぎ》で引受けたでしょう。
 途中の、不意の用心に、男が二人、母親と、女中と、今の二人の婦人《おんな》で、五台、人力車を聯《つら》ねて、倶利伽羅峠を越したのは、――ちょうど十年|前《ぜん》になる――
 同じ立場《たてば》で、車をがらがらと引込んで休んだのは、やっぱり、今残る、あの、一軒家。しかも車から出る、と痙攣《ひきつ》けて、大勢に抱え込まれて、お綾の膝に抱かれた処は。……
(先刻、貴下《あなた》が、怪《あやし》い姿で抱合っている処を蚊帳越に御覧なすった、母屋の、あの座敷です。)
 ッて貴婦人が言いましたっけ。
 お先達。」
 三造は酔えるがごとき対手《あいて》を呼んで
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