た時は、少《わか》い人の膝枕で、貴婦人が私の胸を撫でていました。」
三十三
「お先達、そこで二人して交《かわ》るがわる話しました。――峠の一軒家を買取ったのは、貴婦人なんです。
これは当時石川県のある顕官《けんかん》の令夫人、以前は某《なにがし》と云う一時富山の裁判長だった人の令嬢で、その頃この峠を越えて金沢へ出て、女学校に通っていたのが、お綾と云う、ある蒔絵師《まきえし》の娘と一つ学校で、姉妹のように仲が好《よ》かったんだそうです。
対手《さき》は懺悔《ざんげ》をしたんですが、身分を思うから名は言いますまい。……貴婦人は十八九で、もう六七人|情人《じょうじん》がありました。多情な女で、文ばかり通わしているのや、目顔で知らせ合っただけなのなんぞ――その容色《きりょう》でしかも妙齢《としごろ》、自分でも美しいのを信じただけ、一度|擦違《すれちが》ったものでも直ぐに我を恋うると極《き》めていたので――胸に描いたのは幾人だか分らなかった。
罪の報《むくい》か。男どもが、貴婦人の胸の中で掴《つか》み合いをはじめた。野郎が恐らくこのくらい気の利かない話はない。惚《ほ》れた
前へ
次へ
全139ページ中119ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング