》もせず、蒼《あお》い火も吹出さず、大釜《おおがま》に湯玉の散るのも聞えはしないが、こんな山には、ともすると地獄谷というのがあって、阿鼻叫喚《あびきょうかん》が風の繞《めぐ》るごとくに響くと聞く……さては……少《わか》い女が先刻《さっき》――
(ここは地獄ですもの。)
 と言ったのも、この悪名所を意味するのか。……キャッと叫ぶ、ヒイと泣く、それ、貫かれた、抉《えぐ》られた……ウ、ウ、ウーンと、引入れられそうに呻吟《うめ》く。
 とても堪《たま》らん。
 気のせいで、浅茅生を、縁近《えんぢか》に湧出《わきで》る水の月の雫《しずく》が点滴《したた》るか、と快く聞えたのが、どくどく脈を切って、そこらへ血が流れていそうになった。
 さあ、もう本箱の中ばかりじゃない、縁の下でも呻吟けば、天井でも呻吟く。縁側でも呻唸《うな》り出す――数百《すひゃく》の虫が一斉《いっとき》に離座敷を引包んだようでしょう、……これで、どさりと音でもすると、天井から血みどろの片腕が落ちるか、ひしゃげた胴腹が、畳の合目《あわせめ》から溢出《はみだ》そう。
 幸い前の縁の雨戸一枚、障子ばかりを隔てにして、向うの長土間へ通ず
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