るや》かに腰に手を組み、日に向ったのは額に手笠で、対向《さしむか》って二人――年紀《とし》も同じ程な六十左右《むそじそこら》の婆々《ばば》が、暢気《のんき》らしく、我が背戸に出たような顔色《かおつき》して立っていた。
山逕《さんけい》の磽※[#「石+角」、第3水準1−89−6]《ぎょうかく》、以前こそあれ、人通りのない坂は寸裂《ずたずた》、裂目に草生い、割目に薄《すすき》の丈伸びたれば、蛇《へび》の衣《きぬ》を避《よ》けて行《ゆ》く足許《あしもと》は狭まって、その二人の傍《わき》を通る……肩は、一人と擦れ擦れになったのである。
ト境の方に立ったのが、心持|身体《からだ》を開いて、頬《ほお》の皺《しわ》を引伸《ひんのば》すような声を出した。
「この人はや。」
「おいの。」
と皺枯れた返事を一人が、その耳の辺《あたり》の白髪《しらが》が動く。
「どこの人ずら。」
「さればいの。」
と聞いた時、境は早や二三間、前途《むこう》へ出ていた。
で、別に振り返ろうともしなかった――気に留めるまでもない、居まわりには見掛けない旅の姿を怪しんで、咎《とが》めるともなく、声高に饒舌《しゃべ》った
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