点《つ》けました。で、縁の端で……されば四日頃の月をこう、」
手廂《てびさし》して、
「森の間《あい》から視《なが》めていますと、けたたましい音を立てて、ぐるぐる舞いじゃ、二三度|立樹《たちき》に打着《ぶつか》りながら、件《くだん》のその昼間の妖物《ばけもの》退治が、駆込んで参りました。
(お先達、水を一口、)
と云うと、のめずって、低い縁へ、片肱《かたひじ》かけたなり尻餅を支《つ》いたが、……月明りで見るせいではござらん、顔の色、真蒼《まっさお》でな。
すぐに岩清水を月影に透かして、大茶碗に汲《く》んで進ぜた。
(明王のお水でござる……しっかりなされ。)
と申したが、こっちで口へ当《あて》がってやらずには、震えて飲めなんだでござります。
やっと人心地になった処で、本堂|傍《わき》の休息所へ連込みました。
処で様子を尋ねると、(そ、その森の中、垣根越、女の姿がちらちらする、わあ、追懸《おっか》けて来た、入って来る……閉めて欲《ほし》い。)と云うで、ばたばた小窓など塞《ふさ》ぎ、赫《かっ》と明《あかる》くとも参らんが、煤《すす》けたなりに洋燈《ランプ》も点《つ》けたて。
少々落着いての話では――勢《いきおい》に任せて、峠をさして押上った、途中別に仔細《しさい》はござらん。元来《もともと》、そこから引返そうというではなく、猿ヶ馬場を、向うへ……
というのが、……こちらで、」
と煙管の尖《さき》で草を圧《おさ》え、
「峠越し竹の橋へ下りて、汽車で帰ろう了簡《りょうけん》。ただただ、山一つ越せば可《い》いわ、で薄《すすき》、焼石《やけいし》、踏《ふみ》だいに、……薄暮合《うすくれあい》――猿ヶ馬場はがらんとして、中に、すッくりと一軒家が、何か大牛が蟠《わだか》まったような形。人が開けたとは受取れぬ、雨戸が横に一枚と、入口の大戸の半分ばかり開いた様子が、口をぱくりと……それ、遣《や》った塩梅《あんばい》。根太ごと、がたがたと動出しもし兼ねんですて。
そいつを睨《にら》みつけて、右の向顱巻《むこうはちまき》、大肌脱で通りかかると、キチキチ、キチキチと草が鳴る……いや、何か鳴くですじゃ、……
蟋蟀《きりぎりす》にしては声が大《おおき》いぞ――道理かな、鼬《いたち》、かの鼬な。
鼬でござるが、仰向《あおむ》けに腹を出して、尻尾をぶるぶると遣って、同一《おなじ
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