は濡《ぬ》れたやうな眞黒《まつくろ》な暗夜《やみよ》だつたから、其《そ》の灯《ひ》で松《まつ》の葉《は》もすら/\と透通《すきとほ》るやうに青《あを》く見《み》えたが、今《いま》は、恰《あたか》も曇《くも》つた一面《いちめん》の銀泥《ぎんでい》に描《ゑが》いた墨繪《すみゑ》のやうだと、熟《ぢつ》と見《み》ながら、敷石《しきいし》を蹈《ふ》んだが、カラリ/\と日和下駄《ひよりげた》の音《おと》の冴《さ》えるのが耳《みゝ》に入《はひ》つて、フと立留《たちとま》つた。
 門外《おもて》の道《みち》は、弓形《ゆみなり》に一條《ひとすぢ》、ほの/″\と白《しろ》く、比企《ひき》ヶ谷《やつ》の山《やま》から由井《ゆゐ》ヶ濱《はま》の磯際《いそぎは》まで、斜《なゝめ》に鵲《かさゝぎ》の橋《はし》を渡《わた》したやう也《なり》。
 ハヤ浪《なみ》の音《おと》が聞《きこ》えて來《き》た。
 濱《はま》の方《はう》へ五六|間《けん》進《すゝ》むと、土橋《どばし》が一架《ひとつ》、並《なみ》の小《ちひ》さなのだけれども、滑川《なめりがは》に架《かゝ》つたのだの、長谷《はせ》の行合橋《ゆきあひばし》だのと、お
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