るぼうで汲《く》み得《え》らるゝ。石疊《いしだたみ》で穿下《ほりおろ》した合目《あはせめ》には、此《こ》のあたりに産《さん》する何《なん》とかいふ蟹《かに》、甲良《かふら》が黄色《きいろ》で、足《あし》の赤《あか》い、小《ちひ》さなのが數限《かずかぎり》なく群《むらが》つて動《うご》いて居《ゐ》る。毎朝《まいあさ》此《こ》の水《みづ》で顏《かほ》を洗《あら》ふ、一|杯《ぱい》頭《あたま》から浴《あ》びようとしたけれども、あんな蟹《かに》は、夜中《よなか》に何《なに》をするか分《わか》らぬと思《おも》つてやめた。
 門《もん》を出《で》ると、右左《みぎひだり》、二畝《ふたうね》ばかり慰《なぐさ》みに植《う》ゑた青田《あをた》があつて、向《むか》う正面《しやうめん》の畦中《あぜなか》に、琴彈松《ことひきまつ》といふのがある。一昨日《をとつひ》の晩《ばん》宵《よひ》の口《くち》に、其《そ》の松《まつ》のうらおもてに、ちら/\灯《ともしび》が見《み》えたのを、海濱《かいひん》の別莊《べつさう》で花火《はなび》を焚《た》くのだといひ、否《いや》、狐火《きつねび》だともいつた。其《そ》の時《とき》
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