ど》から出《で》て、本堂《ほんだう》の前《まへ》に行《い》つた。
 然《さ》まで大《おほ》きくもない寺《てら》で、和尚《をしやう》と婆《ばあ》さんと二人《ふたり》で住《す》む。門《もん》まで僅《わづ》か三四|間《けん》、左手《ゆんで》は祠《ほこら》の前《まへ》を一坪《ひとつぼ》ばかり花壇《くわだん》にして、松葉牡丹《まつばぼたん》、鬼百合《おにゆり》、夏菊《なつぎく》など雜植《まぜうゑ》の繁《しげ》つた中《なか》に、向日葵《ひまはり》の花《はな》は高《たか》く蓮《はす》の葉《は》の如《ごと》く押被《おつかぶ》さつて、何時《いつ》の間《ま》にか星《ほし》は隱《かく》れた。鼠色《ねずみいろ》の空《そら》はどんよりとして、流《なが》るゝ雲《くも》も何《なん》にもない。なか/\氣《き》が晴々《せい/\》しないから、一層《いつそ》海端《うみばた》へ行《い》つて見《み》ようと思《おも》つて、さて、ぶら/\。
 門《もん》の左側《ひだりがは》に、井戸《ゐど》が一個《ひとつ》。飮水《のみみづ》ではないので、極《きは》めて鹽《しほ》ツ辛《から》いが、底《そこ》は淺《あさ》い、屈《かゞ》んでざぶ/″\、さ
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